記録業務のAIは「速くなる」とは限らない、と分かった週
今週は59本を取り上げました。論文37本、プレスリリース14本、ニュース8本です。ニュースの収集を今週から始めたので、論文と製品発表に加えて、報道された動きも並ぶようになりました。テーマでは電子カルテ・記録業務が13本で一番多く、臨床意思決定支援の10本が続きます。
記録業務のAI:体感は上がり、時間は減らなかった
記録業務でおもしろかったのは、時間が減らなかった報告です。GPT-4.1で退院サマリの入院経過を下書きする機能では、導入前後で編集時間に差が出ませんでした(6.60分と6.28分、p=0.11)。むしろAIを使った症例のほうが長く、調整後で32%増えています。それでいて医師36人中31人が効率は上がったと答えていて、体感と実測がずれています。米国のAIスクライブを11週間試した報告も同じ週に出ていて、記録支援は「入れたら速くなる」ではなく「何がどう変わるかを測る」段階に来ています。
導入側の数字とコスト:37分が3分、ローカルLLMは400万円から
企業側からは短縮の数字が出ています。三重県の永井病院がAI基幹システムを導入した発表では、退院サマリの作成が37分から3分になったとしています。これは病院と企業が公表した数字で、研究として検証されたものではありません。同じ週に、院内にローカルLLMを置いて診療情報を処理するクリニックの話も報じられました。ベンダー経由だと初期費用は約400万円から、保守は月額約30万円からだそうです。工夫すれば安く始められる一方で、本格的に組むとそれなりの金額になります。
院内のローカルLLMで診療情報を処理するクリニックについて、ITmediaが報じました。
- 東京都文京区の本郷真砂ハートクリニックは、院長自らMac Studioで環境を構築。過去診療情報の要約と、音声認識によるカルテ作成の補助に使い、処理は院内で完結する
- 医療機関向けにGENSHI AIが提供する構成は、初期費用が約400万円から、保守が月額約30万円から。同社には20件以上の問い合わせがあるという
- 記事はベンダー経由の導入について、医療機器と比べて安いとは言いにくいと指摘している
出典:ITmedia / ローカルLLM利用のクリニックが話題 院長自ら環境を構築 「医療機器より安い」は本当か
サトシ 音声からカルテへの転記が一番の需要、というのは現場の実感に近いです。
モデル選び:精度が並んでも、コストと偽陽性で差がつく
モデルの比較では、精度だけを見ても足りないという報告が2本ありました。8種類のLLMを216症例で比べた研究では、精度が1%以内に並んでいてもコストは最大1.75倍、医師の監督量は2.1倍の差がありました。救急の心電図でSTEMIを判断させた検証では、Geminiの感度95.3%に対して特異度は9.4%です。ほとんど全部を陽性と判断していることになり、このままカテ室を動かす判断には使えません。選ぶときに見る数字を、精度から運用コストと偽陽性に移したほうがよさそうです。